2年連続でプロ野球セ・リーグ最優秀選手(MVP)に輝き、広島のセ・リーグ3連覇に貢献した丸佳浩外野手がフリーエージェント(FA)制を活用して巨人に移籍した。ここ数年、常勝を義務付けられた巨人の前に大きく立ちはだかったのは広島だ。
巨人の目の上のたんこぶであった広島の主軸を引き抜くことで、自らの戦力の強化はもちろん、相手の戦力をダウンさせる効果も期待できる。事実、2019年シーズンのカープは、開幕ダッシュに失敗し、コイの季節になっても苦戦は続いた。
テレビ放映権に支えられたメディア経営の時代
朝日新聞出版発行の週刊誌『週刊朝日』の2019年4月19日増大号に、平成のプロ野球を振り返る記事を寄稿した。昭和のプロ野球は、長嶋茂雄、王貞治の人気・実力を兼ね備えたレジェンドがプロ野球を盛り上げたON時代であり、V9の達成をはじめ、セ・リーグの1強体勢を築いた。
「巨人・大鵬・卵焼き」という流行語に代表されるような巨人の人気を支えたのは、ONの力だけではない。昭和20年代後半から始まったテレビ放送で、プロ野球中継は視聴率の取れるコンテンツとなり、その主役は巨人戦だった。
テレビ放映権を軸にした球団経営で、巨大メディアグループをオーナーに持つ読売巨人軍は資金力を蓄えていく。実力のある新人選手の獲得や、トレードなどでの戦力補強に潤沢な資金は活かされ、「視聴率が上がる→資金力が高まる→戦力が強化される」という好循環をつくり上げた。
地域球団の時代、光る広島の経営力
時代は平成へと移り、プロ野球経営の勢力図は変わった。プロ野球中継がテレビ放送のゴールデンタイムから姿を消し、メディア力を生かした球団経営が機能しなくなったためだ。球団オーナーの交代や新規参入などを経て、楽天やソフトバンク、DeNAなどのIT企業が台頭した。
その中で、激変に流されず、球団経営の独立採算を堅持し、球界の優良企業となっているのが、広島東洋カープだ。カープの2018年の決算は、売上高が5年連続で過去最高を更新し、当期純利益は44年連続の黒字だ。チームの実力だけでなく、経営力にも磨きをかけている。その背景には、ホームスタジアムをメジャー式の「ボールパーク」として活用し、カープ女子など様々な層をファンに取り込むことに成功したことが大きい。FAに頼らず、自前で選手を育てる育成力に長けていたことや、スター選手の球団に対するロイヤルティー(忠誠心)も高い。
それだけに、主砲・丸選手の巨人へのFA移籍は、広島には大きなダメージだったに違いない。勝負は水物だけに、2019年シーズンのリーグ4連覇を約束するのは難しい。ただ、経営努力によって、業績好調を続けることはできるはず。球場に足を運ぶファンの気持ちを離さないマーケティング戦略など球団経営の真の強さが試されることになりそうだ。
(コンクリエ主宰 小島清利)