ーphoto M.Tー
「♪ニッシンボー、名前は知ってるけど~♪」のフレーズを連呼する企業CMを『ドッグシアター』と言うのをご存じだろうか。2012年4月にオンエアを開始して以来、人間ぽい犬が登場する奇抜なCMをシリーズ化し、「ニッシンボー」という会社の名前を多くの人々に印象付けることに成功した。
「ニッシンボー」は「日清紡」と書く。正式名称は日清紡ホールディングス。会社の歴史は古く、1907年、高級綿糸の大量生産を担う紡績会社として創業した。戦後の復興、高度経済成長の流れの中で、自動車のブレーキや化学品といった繊維以外の部門の業容が拡大し、本格的に「経営の多角化」を加速した。
「NISSINBO」はすでに国際化
「日清紡」の社名からイメージするのは繊維会社だが、すでに日清紡ホールディングスの売上高に占める繊維事業の割合は1割に過ぎない。売上高比率でいうと、エレクトロニクスが4割程度で主力事業になっているのだ。
ブレーキ中核部品である摩擦材の世界シェアも高い。自動車産業との強固な取引関係を生かし、エレクトロニクスや無線技術のノウハウを活用し、自動車のIoT(モノのインターネット)関連にも力を入れている。
このように、すでに繊維会社としての面影は薄くなっているのに、「日清紡」の社名を変えずにいるのは、イヌのCMで「ニッシンボー」の名前が定着しているからに他ならない。しかも、「NISSINBO」の社名を聞いた海外の人たちは、「BO」が、紡績の「紡ぐ」という意味であるとは知らない。
パナソニック、AGCは社名変えた
企業が社名を変えるのは、難しい決断だ。最近で最も話題を集めた社名変更は、松下電器産業がパナソニックに変更したことだろう。パナソニックはもともと、テレビや音響機器事業の商品に使用するブランドだった。
洗濯機や冷蔵庫など白物家電と呼ばれる商品のブランドには、創業者の松下幸之助氏が考案した「ナショナル」を使用していた。しかし、2008年、会社名を松下電器産業からパナソニックに変更する際、「ナショナル」ブランドも廃止された。
事業がグローバルに拡大していく中で、海外では、白物家電も「パナソニック」ブランドを使っていた。パナソニックが社名変更に使った費用は数百億円にのぼるとされたが、広告宣伝費の効率化などの効果もあり、パナソニックの社名変更はうまくいった例かもしれない。
また、旭硝子は2018年7月から、社名を「AGC」に変更した。同社は02年からグローバルグループ一体経営を進めており、創立100周年にあたる07年にはグループブランドを「AGC」に統一し、国内外の連結子会社の社名を原則として「AGC」を冠したものに変更していた。AGCへの社名変更は、グローバルグループ一体経営の総仕上げだという。
時代の流れで、社名と事業の中身が変わってゆく中で、社名を変える決断と、変えない決断のそれぞれの背景を知るのは興味深い。
■コンクリエを主宰する小島清利は、週刊エコノミスト(2018年8月28日号)で、日清紡ホールディングスの河田正也社長を取り上げた経営者インタビューの構成を担当しました。